古城 2002/3/7 |
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ある古い地方都市に行った時であるが、時間の余裕があったので町の中心部に近い古城を見に回った。 真夏の暑い午後であったので、木陰を選んで曲がりくねった石垣のそばを一人通っていった。頭上の太陽はジリジリと舗装されていない地面を白く照らしている。 堀の水面は緑色を帯び暑苦しくよどんで、風紋ひとつ見せないでいる。 城の門そばには見学キップの販売所があり、手持ち無沙汰な60代の痩せた男が半券をちぎって渡してくれた。 回りには他の見学者も見えない。 暗い入口を通り、重そうな梁を見上げながら階段を登っていった。 古い武具や白く光る刀がガラスのケースに入っている。 城下町のミニチュアやよその城の写真も飾ってある。 軋む木の階段をだんだん見て上がる毎に窓が明るくなり白い光が暗い城の中に差し込んでくる。 古いものを見すぎたのか疲れてきたので、ふと立ち止まり瓦で囲まれている窓に近寄り外を眺めていた。 そこの窓からは二の丸の端整な全体が見渡せる。 下の城閣は事務所となっているのか机や書棚などが見えるが、だれもおらずガランとしている。 上の城閣には埃っぽいしっくい壁や色あせた絨毯の床が見えて、古い調度品がだらしなく散らばって置いてあるだけだ。 しかし誰やら人が動く気配がする。 窓そばを横切るその姿はチラリとだが、上臈風の黒髪に茶色の色あせた着物とおしろいの付いた白いうなじと美しい横顔が見られた。 しかしすぐに壁の中に入ったきり見えなくなった。 じっと見つめていたが色あせた部屋はまったく動きがなく夏の午後の空虚な時間が経っていった。 あれは真夏の幻影だったのか?ただの白日夢だったのか? 古いものにはなにかの命が存在している。 あなたも古城に行かれる時は、古い時間が一体何を垣間見せてくれるか、注意してご見学を! |
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